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大体どのジャンルでも初めてのSSはどこか滑ってる感が自分の中で否めないんですが愛には勝てない。
ドキドキ機関車のEDに悶えた結果だと思って頂ければ幸いです。
別に映画見てなくても問題ない仕様だと思います。
「あ」
「…何ですか」
レトロな機関車の貨物車両の積み荷の上。
22世紀に似つかわしくないゆったりとした速度で進む列車ががたがた鳴る中、マタドーラが出した呟きに不機嫌そうな返答をしたのは王ドラだ。
「どうしてこんな所に?」
そう、続けて一言。これもまた、ひどくぶっきらぼうに。
「シエスタにいい場所を探してたんだよ。まさかこんな所に王ドラがいるなんてなあ。お前は?」
「古い機械には大きな魅力があると思いませんか?風にあたってゆっくりと、歩くように進む心地よさ。そんなものを感じながら、ちょっとヌンチャクの手入れでも、と」
「はあ…分からねえなあ」
王ドラのすぐ隣へ腰掛けて、そのまま体勢を崩して横になりながらエル・マタドーラは小さく呟く。
横目でちらと王ドラを見やれば、白い布切れでもってヌンチャクを丁寧に磨きあげている。傷やほつれ、擦り切れた表面が太陽の日に写し出されていた。
「ずいぶん使い込んでるな」
「ええ、まあ。もう長い間ずっと使っていますからね…そろそろ換え時かと毎度思うものの、まだ使えますしこれまでの愛着もあって中々手放せず……。
というか、エル」
「何」
大あくびをしたエルへ、細めた視線の先を向けて王ドラが言う。目尻に溜めた涙を指先で拭う間にも更に続けてもう一つあくびをしている。肘をついて頬杖をかき、足を組んだままエルは本格的に眠りに入ろうとしているところだ。
「……こんなに凸凹とした、足場の悪いところでわざわざ昼寝を取るのですか」
「俺には俺のこだわりがあるんだよ」
「はあ…そうですか。そういえばあなたは走行中の列車の屋根でも構わず眠っていましたっけ」
そうそう、と適当な相づちを返してからエルはそっと目を閉じた。それからため息をひとつ。
王ドラがそれを覗き込んでみると、10を数えるより早く眠ってしまいそうなほどリラックスして見えた。
閉じた瞳。濃くて長い睫。うっすらと開いた整った唇からは小さな呼吸音が漏れている。
(分からない人だ…。だけど、)
羨ましい。
その一言を飲み込んで、手元へまた視線を戻す。
自由奔放に、好きなときに、周りの迷惑を顧みずに眠って。だけど、必ず仲間のピンチには駆けつけて、最後まで諦めず、見捨てはしない。
熱血漢の力持ちの、単細胞の居眠り屋。
何だかなあと思いつつ、憎めないのが憎らしい。
子どものように健やかな寝息が聞こえてくる。本当に、あっという間に眠ってしまったようだ。
幸せそうなその寝顔に、王ドラまで何だかおかしくなってしまって、思わず笑みをこぼす。
本当に、子どもみたいだとどこか愛おしさすら覚えて。
「…なに、一人でにやにやしてるんだ?」
そんな表情のまま、布巾に息を吐いてはヌンチャクの汚れを丹念に拭き取っているとすぐ傍から声が聞こえた。誰のものと疑うまでもなくエルの声だが、思っていたよりずっと近くに響くそれに思わず驚いて王ドラが肩を震わせた。
「え、ええ、エル…っ、寝てたんじゃないんですか!」
「王ドラが鼻歌なんか歌うから、気になって目が覚めちまっただろ」
「は、鼻歌?」
「無意識だったのか? 鼻歌歌って、いやに楽しそうにしてたじゃねえか」
「そんな…」
身体を起こして、王ドラの肩に顎を載せてエルが耳元で囁く。猫の耳が、ぴょこんと跳ねる。
「何が楽しかった?」
「何も…楽しいことなんて」
「なのに笑ってたのか?そりゃ気味が悪いだろ」
「………まあ、そうですけど。何となく、ほら。さわやかな…空気に感化されることって、あるでしょう」
「無い」
「…無いんですか。じゃあ、あなたには分からないでしょうね」
「………」
「………」
黙りこくったエルが、じっと王ドラを見つめる。
適当な言い訳も誤魔化しも見抜かれていると気づいていながら、王ドラはそれ以上言葉を紡ぐことが出来ずに沈黙でそれに返した。
「あ、あなただって…いやに幸せそうな顔をしていたでしょう」
話題をすり替えるように、主語をエルへと転換する。
「俺?俺はそりゃー…寝ることが楽しみだし。何より、王ドラがここに居たから」
「はあ?」
「何だその声。お前がいたから嬉しかった」
「はあ…?何ですか、あなたそんな口説き文句が誰彼構わず通じるとでも」
「思ってないけど。でも、本当だから仕方ないだろ?」
「仕方ないって……」
首もとまで紅く染めた王ドラを見て満足そうにエルが笑った。
「まあ、いいや。俺、そういうところも好きだから」
「……っ、だからあなたには恋人が出来ないんですよ…」
「王ドラが言うなよ」
からかうようにもう一つ笑って、エルが顔を寄せた。
キスの距離。
「…エル、」
鋭い、王ドラの猫のような瞳が一回り大きく開かれる。
眼前の男の名を呼ぼうとした、刹那に、掠めるように唇が重なって、そして去っていった。
「……き、す」
「言葉で分からないみたいだから、態度もプラスしてみた」
何事もなくエルが言う。
こんなの、俺の国ではスキンシップだと一言付け加えて。
「……ば、」
「!王ドラ、」
馬鹿ですか、と言おうとして足場が崩れた。
そもそも、安定の悪いところだ。二人がこれまで難なく腰掛けていたことの方がおかしな話だった。
滑り落ちそうになった王ドラの腕をエルが掴むが、それを振り払って王ドラはひらりと受け身の姿勢を取りながら器用に翻って元の場所へと戻ってしゃがみ込んだ。
「あなたの手を借りなくてもこのくらい…」
「…それならいいんだけどよ」
相も変わらず顔を真っ赤にしたままでいる王ドラに、エルが苦笑で返す。
「別に、俺だって心配した訳じゃない」
「そもそもあなたが…驚かせるようなことをするから!」
「はいはい」
手をひらひらと振って、エルはまた身体を倒した。二度寝を始めるらしい。
「…じゃ、おやすみ。都合のいい夢でも見るとするよ」
「………お休みなさい」
皮肉を込めたようにも聞こえる言葉を吐いて、エルがそっぽを向く。まるで何事もなかったかのような振る舞い。
何とも言えない感情が、王ドラの中にゆらゆらと立ち上った。悔しい?寂しい?それとも。
(別に、何でもいいんですけどね…)
心を無に。
このくらいのことでかき乱されていてはいけない。こんなことだから、一流の武術家にはまだまだ足りないのだ。精神面の修行が必要だ…。
言い訳のように自問を繰り返す。また一心不乱に武器を磨きあげていると、これでもかというほどいやにピカピカと光るほどになっていた。
ふと気づいた空はもう早い夕方で、風も少し肌寒くすら感じられる。
終点駅までもう少し。
癖毛の髪が風に揺れる。エルの髪も、風にふわりとそよいでいる。
王ドラは一息つくと四次元袖に武器をしまいこみ、エルの髪にそっと手を伸ばした。量が多く、日の光を吸い込んだみどりの黒髪は暖かい。
「…風邪を、引きますよ」
小声で話しかける。寝息と、何を話しているのか聞き取れない寝言が聞こえた。
「……エル。別に、あなたのこと、嫌いな訳じゃないんですよ。ああいう強引なところも、…嫌じゃない。私は自分からなんてとても、何も、言えませんし出来ませんから。
だけど、もう少し待ってくれませんか。あなたと二人は、…本当は、とても、心地いいんです。
言えるわけ、ないじゃないですか。こんな、本当のこと。まだしばらくの間、臆病な嘘つきの私でいさせてください」
もう1トーン低く、より小声でぼそぼそと話す。言葉の一つ一つが風に乗り、ふわりふわりと流れ飛ぶ。
見えない最後の一言が、遠く遠くへ消えていくのを見送るようにしばらく宙を見つめていた王ドラは、満足したようにその場を去っていった。
隣の車両との連結部に飛び移り、「エル・マタドーラ!いつまで寝ているんですか。そろそろ着きますから、さっさと起きた方がいいですよ!」と大きな声で叫んでから、仲間の元へと駆けていった。
「……お前の隣で熟睡出来るわけ無いだろうが…ばーか」
王ドラの声を耳に入れて、エルは薄く目を開いた。
どんなに可愛い女の子を口説く時にもしないような、緩んだ口元を思わず手のひらで覆い隠す。
「意外と演技がお上手で…」
文句の一つも叩きたくなる。
あと5分くらいは眠った振りを続けておいて、「何で起こしてくれなかった」と演技で以て返してやろう。
まだしばらくは、騙し合い。
お互い見抜いていない振り。
